エッセイ
2025年07月04日 15時22分

「曇りなく常に良く」が教えてくれた、心の声に耳を傾ける大切さ

心の声が混ざり合う青春の瞬間

井戸川射子さんの『曇りなく常に良く』という小説を読みました。最初は正直、どういう話なのかよく分からなくて、ぼんやりとページをめくっていました。でも、読み進めるうちに、なんだか心がじわりと温かくなっていくような不思議な感覚を覚えたんです。

この小説、5人の高校2年生の女の子たちが主役なんですよね。彼女たちが抱える悩みや喜びが、なんというか、すごくリアルに伝わってくるんです。私自身、学生時代に「自分だけの場所」を探していた頃を思い出しました。あの頃は、未来がはっきり見えなくて、ただ目の前のことをこなすのに必死だった。彼女たちもまさにそんな感じで、でもその中で見つけた小さな喜びを大切にしているんですね。

動き続ける青春という名のジョギング

特に印象に残ったのは、ナノパという女の子の視点でした。彼女は走ることが得意で、「ゴールのないジョギング」という表現がありました。これを読んだとき、ああ、まさに高校時代ってそうだったな、と思いました。未来やゴールが見えなくても、今を精一杯生きることの大切さ。それが彼女たちの心の動きとして描かれていて、共感せずにはいられませんでした。

この小説は、特に大きな事件が起こるわけではなく、むしろ静かに進んでいきます。それが逆に、彼女たちの微妙な心の動きを引き立てているように感じました。彼女たちの語る言葉が、まるで自分の記憶の中の断片と重なり合うような、そんな不思議な感覚に包まれました。

個々の声が響き合う瞬間

この本を読んでいると、登場人物たちの声が混ざり合って、一つの大きなハーモニーを奏でているように思えるんです。彼女たちの声は似ているけれど、それぞれに微妙な違いがあって、その違いがまた面白い。彼女たちは一人一人が独自の視点を持っていて、その視点が交錯する瞬間がたまらなく好きでした。

例えば、シイシイという子は、言葉に対するこだわりを持っていて、彼女の独白にはしばしばドキッとさせられます。彼女たちのやりとりを見ていると、まるで自分もその場にいるかのような錯覚を覚えるんですよね。そして、彼女たちの何気ない会話が、どれだけ大切なものかを改めて感じました。

日常の中にある小さな幸せ

この小説を通して、私が強く感じたのは、日常の中にある小さな幸せの重要性です。大きな夢や目標がなくても、今を生きることの尊さ。これは、震災後に東北を訪れた際に感じたことと重なる部分があって、個人的に非常に心に残りました。地域の人々が、ささやかな喜びを見つけながら日々を大切に生きている姿を思い出しました。

そんな日々の中で、彼女たちが感じる生きにくさも、また共感できる部分でした。どんなに小さなことでも、それを乗り越えた先に何かがあると信じること。彼女たちの姿は、その信念を教えてくれました。

井戸川さんの文章は、読んでいてとても心地よいリズムがあるんです。五人の心の動きに寄り添うような、そんな文章が、読み終わった後もずっと心の中に残り続けました。これからも、何かに迷ったときにはこの本を手に取って、彼女たちの声に耳を傾けたいと思います。

高橋 湊

高橋 湊

静かに本と向き合うのが好きな会社員。ノンフィクションや地方の物語を読みながら、自分の暮らしを少しずつ耕しています。派手さはないけれど、じわじわ染みる本が好きです。

タグ
#井戸川射子
#心の声
#日常
#青春
#高校生活