ノンフィクション
2025年09月20日 21時08分

江戸時代の植物学に触れる:『江戸の植物学』大場秀章に心を動かされて

こんにちは。今日は大場秀章さんの『江戸の植物学』という本に心を動かされたことをお話ししたいと思います。普段は静かに本を手に取るタイプの私ですが、この本を手にしたときは、なんだか心が騒いだんです。北海道の小さな町で書店員をしている私にとって、植物といえば、季節の移ろいを感じるための大切な存在。だからこそ、この本は私にとって、特別な一冊になりました。

江戸時代の植物学と私の記憶

この本を読み始めてすぐに、幼少時代に祖父と庭を散歩した記憶がよみがえってきました。祖父は昭和文学が好きで、時々庭の草花を見ながら、江戸時代の話をしてくれたことがあります。あの頃は、ただの雑草だと思っていたものにも、実は深い歴史と物語があったんだなと、この本を読みながらしみじみと思いました。

『江戸の植物学』は、そんな私の記憶を優しく掘り起こし、江戸時代の本草学という学問を通じて、植物の世界を紐解いてくれるのです。著者の大場さんの筆致は、まるで私たちを江戸時代へと誘ってくれるようで、知らないうちに引き込まれてしまいました。

柿の話に心を動かされて

本書では、柿についての記述が特に印象に残りました。柿の種類や特徴、そして「木練り」や「木淡」という言葉の持つ意味を知ることで、ただの果物を超えた何かを感じました。私自身、柿はあまり好きではなかったのですが、この本を読んでからは、店先で柿を見るたびに、なんだか心が温かくなるのです。

江戸時代の人々がどのように植物を生活に取り入れていたのか、その姿が目に浮かぶようでした。特に、「酒後柿ヲ食スルベカラズ」といった記述には、当時の生活の知恵が詰まっているようで、今の私たちにも通じるものがあると感じました。

国際交流と知識の普遍化

また、ケンペルやシーボルトといった外国人学者たちが日本の植物をどのように見ていたのかという点も非常に興味深かったです。彼らの熱意と情熱が、彼らの記述からひしひしと伝わってきて、知識を普遍化しようとする力が国境を越えて広がっていく様子に感動しました。

「知の国際化、普遍化」という言葉が本書に登場しますが、これはまさに今の時代にも必要なことだと思います。地球規模での環境問題を考えるとき、こうした歴史から学ぶことがたくさんあるのではないでしょうか。

本書の美しさとその魅力

最後に、この本の美しさについても触れたいと思います。岩崎灌園や川原慶賀の植物画が添えられていて、それがまた一層、この本の価値を高めています。ページをめくるたびに、精緻な植物画が現れて、私はその美しさに何度もため息をつきました。

『江戸の植物学』は、単なる学術書ではなく、人々の生活と自然を結びつける物語でもあります。この本を通じて、植物の持つ力やその背景にある歴史を感じ取ることができ、心が豊かになるような読書体験をしました。

なんだか、心にやさしい読書でした。そっと本棚に置いておきたい一冊です。もし、機会があればぜひ手に取ってみてください。きっと、あなたの心にも何かしらの響きをもたらしてくれるはずです。

rio_reads

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北海道の小さな町で、静かに本を手渡す日々を送っています。子どもの頃、祖父にたくさんの昔話を読んでもらったことが、今でも心の芯に残っています。流行の本よりも、少し古びた本や、静かに棚の奥に佇む本に惹かれます。

物語の余韻や、そっと心に残る言葉を大切にしたい。そんな気持ちで、読んだ本をゆっくり、ていねいに紹介しています。派手ではないけれど、誰かの暮らしをちょっとだけあたためる、そんな本と出会えたら嬉しいです。

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