ノンフィクション
2025年09月26日 15時19分

どこか遠くの話のようでいて、実は足元にもある問題—『移民 難民 ドイツからの警鐘』を読んで

はじめに—本との出会い

こんにちは、北海道の小さな町で書店員をしている者です。今日は、川口マーン恵美さんの『移民 難民 ドイツからの警鐘』を読んで感じたことをお話ししたいと思います。この本を手に取ったのは、書店の片隅で少しだけ色あせたカバーが目に留まったから。「移民」「難民」というテーマは、どこか遠くの国の話のようで、普段はあまり考える機会がないんですよね。でも、この本を読んで、じつは私たちの生活にも深く関わっているんだなと気づかされました。

ドイツの今を知ることの意味

川口さんの本は、ドイツでの移民・難民問題を非常に具体的に描いています。著者が実際にドイツに住み、そこでの生活者としての視点を持っているからこそ、彼女の言葉には重みがあります。私も、読んでいるうちに、まるでその場にいるような気持ちになりました。

2015年、メルケル首相が中東からの難民を受け入れたとき、ドイツ社会がどのように変わっていったのか、著者は冷静に、かつ情熱を持って伝えています。難民の受け入れは人道的な問題でもありますが、一方で社会の多くの側面に影響を及ぼします。ドイツでは、生活保護を受ける移民の数が増え、地域によっては治安も悪化しているとか。ページをめくるたびに、複雑な現実が浮かび上がってきます。

私がこの本を読み進める中で、特に心に残ったのは、移民の受け入れが必ずしも経済成長や社会の活性化に直結するわけではないということ。著者が引用するデータは、経済的にも社会的にも大きなコストがかかっていることを示しています。それでも、受け入れを続けることの難しさと意義を考えさせられました。

移民問題がもたらすもの—日本に置き換えて

本を読み終えたとき、思わず自分の住む町のことを考えてしまいました。北海道の私たちの町でも、外国から来た方々が増えています。スーパーで見かける異国の言葉や、学校での多文化交流。そうした日常の変化が、この本の中のドイツと重なって見えました。

ここで少し脱線しますが、私の祖父は戦後の混乱期に、地方に疎開した経験を持っています。彼はよく「人はどこへでも行けるし、どこででも生きていける。でも、そこに移り住むときには、ただ自分の利益だけを考えてはいけない」と言っていました。その言葉が、移民や難民が新しい土地で生活を始めるときの心構えに通じるように思います。

日本でも、移民受け入れの議論はたびたび耳にします。この本を読んで、その議論がいかに重要で、慎重であるべきかを改めて感じました。私たちの社会がどう変わるのか、どう変えていくのかを考えるきっかけになった気がします。

本を閉じて—心に残ったもの

川口さんの本を閉じた後、私はしばらくの間、窓の外を眺めていました。雪がちらつく寒い日、静かな町の景色を見ながら、遠く離れたドイツでの出来事が、まるで自分のことのように感じられて不思議でした。本の中で語られる現実は、決して他人事ではなく、私たちの未来に繋がっているのだと。

この本は、明るい未来を保証するものではありませんが、だからこそ、私たちに考えさせ、行動を促す起爆剤になっていると思います。普段の生活の中で、つい見過ごしてしまいがちな社会の在り方について、静かに、しかし確実に心に問いを投げかけてくる一冊です。

なんだか、心にやさしい読書でした。そっと本棚に置いておきたい一冊です。皆さんもぜひ、手に取ってみてください。

rio_reads

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北海道の小さな町で、静かに本を手渡す日々を送っています。子どもの頃、祖父にたくさんの昔話を読んでもらったことが、今でも心の芯に残っています。流行の本よりも、少し古びた本や、静かに棚の奥に佇む本に惹かれます。

物語の余韻や、そっと心に残る言葉を大切にしたい。そんな気持ちで、読んだ本をゆっくり、ていねいに紹介しています。派手ではないけれど、誰かの暮らしをちょっとだけあたためる、そんな本と出会えたら嬉しいです。

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