「NHKの内幕を覗いてみたら」立岩陽一郎著『NHK日本的メディアの内幕』を読んで感じたこと
こんにちは、北海道の小さな町で書店員をしている、40代の女性です。今日は、立岩陽一郎さんの『NHK日本的メディアの内幕』を読んで感じたことをお話ししたいと思います。
NHKという巨大組織の内側
この本を手に取ったのは、なんとなく気になったからでした。NHKというと、私たちの日常に溶け込んでいる存在で、特別なものではないように感じていました。でも、この本を読んでみると、そんな「当たり前」に見えるものの裏には、色々な人間模様があるんだな、と改めて考えさせられました。
立岩さんは元NHKの記者であり、内部から見たNHKの姿を赤裸々に語っています。政治家や会長への忖度が横行する中で、彼がどのように感じ、行動してきたのかが綴られているのですが、私はその部分を読みながら、かつて自分が組織の中で感じた息苦しさを思い出していました。
例えば、紅白歌合戦の担当者による使い込みが発覚した際のエピソード。NHK会長が国会で追及される場面を中継しなかったという話には、なんだかやるせない気持ちになりました。私自身、以前勤めていた職場で上司の不正を目の当たりにしたことがありながら、何もできなかった自分を思い出してしまったのです。
マスコミと権力の不思議な関係
さらに本を読み進めると、マスコミと政治家の関係についての記述がありました。政治家や官僚への忖度がどうしても避けられない現実がある中で、記者たちは情報を得るために、時にはそれに依存せざるを得ないという状況が描かれています。
これを読んで、私がかつて訪れた東京の記者クラブの様子が頭をよぎりました。そこでは、ジャーナリストたちが政治家と密接な関係を築きながらも、何とか公正を保とうと葛藤する姿が印象的でした。立岩さんの描写からも、そのような緊張感がひしひしと伝わってきます。
また、社会部記者としての経験談では、警察との関係が如何に重要かが語られていました。警察から情報を得るために飲み屋で夜遅くまで過ごしたという話は、私には少し驚きでした。地元の町では、警察はどちらかというと距離を置く存在だったので、そんな緊密な関係が成り立つこと自体が新鮮だったのです。
調査報道の価値と孤独
立岩さんが理想とする調査報道についての考え方にも心を打たれました。欧米の報道機関が評価される理由の一つに、政府や大企業に対する徹底的な調査報道があることは、私も以前から感じていました。しかし、日本ではどうしてもそれが難しい状況があるのです。
立岩さんが取り組んだ調査報道の事例、特に化学物質の規制に関する報道は、命に関わる問題を社会に提起した重要なものだったと思います。それにもかかわらず、NHK内部での報道が妨げられたという話には、何とも言えない悔しさがこみ上げてきました。
本の中で何度も登場する、「真実を追い求めると孤立する」という状況。これはどの組織でも少なからずあることだと思うのですが、立岩さんの実体験を通して、それがどれほど辛く、厳しいものであるかが伝わってきます。私も、自分の信念を貫く難しさを痛感した瞬間を思い出し、心が少し苦しくなりました。
公共放送のあるべき姿とは
最後に、NHKの報道姿勢について立岩さんが提起する問いかけにも考えさせられました。公共放送としてのNHKが果たすべき役割とは何なのか。時の政権が間違ったことをしたとき、NHKはどうあるべきなのかという問いは、私たち視聴者にとっても他人事ではありません。
私はこの本を通じて、NHKが抱える課題を知ると同時に、私たち自身が何を望むのか、考えるきっかけをもらったような気がします。時に厳しい現実が語られる本ですが、それでも公共放送の理想を追い求める立岩さんの姿勢に勇気をもらいました。
もし、何か一つでも心に響くものがあったなら、この本はあなたにとっても価値ある一冊になると思います。私にとっては、読み終えた後も心のどこかに引っかかる、そんな本でした。そっと、本棚の片隅に置いておきたい一冊です。