エッセイ
2025年08月17日 03時18分

「タピオカ屋はどこへいったのか?」が教えてくれた、商売の奥深さと人との繋がり

福岡出身で20代後半、もともとは理系のエンジニアだった僕が、今はこうして本に心を揺さぶられ、書評を書くことになったきっかけを作ってくれたのが、大学時代に偶然手にしたノンフィクションでした。その時、「本ってこんなに人を変えるんだ」と衝撃を受けたことを今でも覚えています。そんな僕が今回手に取ったのが『タピオカ屋はどこへいったのか? 商売の始め方と儲け方がわかるビジネスのカラクリ』という一冊です。この本は、単なるビジネスの入門書にとどまらず、商売の本質や人との繋がりについて深く考えさせられる内容でした。

タピオカブームの裏側にあるもの

この本を読み進めるうちに、ふと「タピオカって一時期あんなに流行ってたのに、今じゃほとんど見かけなくなったな」と思い返しました。福岡の街を歩いていると、確かにあの頃はどこを見てもタピオカドリンクの看板が目に入ったものです。しかし、今はその代わりに新しいブームが次々とやってきては、また去っていく。タピオカブームの終焉について、本書は「プロダクトライフサイクル」の視点で解説しています。流行の裏には消費者の心理や社会の変化が絡み合い、商売の寿命を決めているのだと。

著者は、タピオカドリンクが単なる飲み物以上の価値を持ち、SNS映えを狙った「撮影アイテム」としての側面が強かったと指摘します。思えば、あの頃は友人たちと一緒に写真を撮ってはSNSにアップするのが当たり前でした。そうした「コト消費」が、あっという間に消費者の興味を引き、また冷めていく様子が描かれているのです。これを読んで、商売の世界がいかに流動的であるかを改めて実感しました。

立ち飲み屋と人との繋がり

一方で、立ち飲み屋が若い女性たちの間で流行しているという話題も興味深く感じました。福岡の街には、たくさんの立ち飲み屋がありますが、最近では実際に女性客が増えているのをよく見かけます。これは「働き方改革」による時間の余裕や、リアルな人との繋がりを求める心理が背景にあるのだとか。確かに、短時間で気軽に楽しめる立ち飲み屋は、現代の忙しい生活にぴったりです。

この部分を読んで、僕自身も「たまには立ち飲み屋に寄ってみようかな」と思いました。人との会話が生む新たな発見や、ちょっとした温もりを感じられる場所が、どれだけ大切かを思い知らされました。普段は理系の仕事でデスクに向かっていることが多い僕ですが、こうした「人の温かみ」に触れることも、時には必要かもしれません。

値段の裏にある価値

本書で特に印象に残ったのは、「1個2万円のメロンがなぜ売れるのか?」という問いです。これには本当に驚かされました。著者は、千疋屋という高級果物店が売っているのは「メロン」ではなく「贈答品」であると説明します。贈り物としての価値を見出すことができれば、価格もまた変わってくる。これは、価格設定の奥深さを教えてくれると同時に、商売の本質を考えさせられる部分です。

この話を読んで、ふと母の日に送った花束のことを思い出しました。花自体はよくあるものでしたが、贈る相手を思い浮かべながら選んだその時間が、何よりも価値のあるものだったと感じます。商売の値段は、単なる数字以上の意味を持つのだと、改めて気付かされました。

この本を通じて、商売の成功に必要なのは、流行やマーケティングのテクニックだけではなく、いかに人との繋がりを大切にするか、その中でどのように価値を見出すかにあると感じました。静かにじわじわと心に響く内容でした。

僕たちの日常には、まだまだ気づかないビジネスのヒントが溢れているのかもしれません。この本を片手に、ぜひ街を歩いてみてください。昨日までとは違う景色が、きっと見えてくるはずです。

晴斗

晴斗

福岡在住、静かな読書が好きな会社員です。ノンフィクションや地方の物語を読みながら、自分の暮らしをゆっくり整えています。派手な本よりも、じんわり心に残る本が好きです。読書は、静かだけれど豊かな旅だと思っています。

タグ
#タピオカブーム
#ビジネス戦略
#人との繋がり
#商売の本質
#消費者心理