「凡庸な日常」が愛おしくなる瞬間:『愛すべき凡庸な日常』に寄せて
『愛すべき凡庸な日常』というタイトルを初めて目にしたとき、正直「凡庸」という言葉に少し引っかかりました。普段、私たちは「特別」や「優れたもの」に価値を見出しがちですから、「凡庸」と聞くと、どこか地味で目立たないイメージが浮かびます。でも、この本を読み進めるうちに、「凡庸」という言葉にこそ、私たちが見落としがちな大切なものが隠されているのだと気づかされました。
日常に潜むユーモアを見つけるということ
守田樹さんの書くエッセイには、日常の何気ない出来事に対する鋭い観察と、ユーモアが詰まっています。例えば、「名古屋の横浜銀行」というエピソード。名古屋にある横浜銀行の看板を見て、普通なら「なんでこんなところに?」で終わりそうなところを、彼は「新幹線のぞみ号の視点から見れば名古屋と横浜は隣同士」と考えるのです。この視点の転換が、本当に面白い。
私自身、普段は見過ごしてしまうような景色に、こんな視点を持てたらどんなに楽しいだろうと思いました。日々の生活の中で「なんだかじわる」瞬間を見つけること、それが実は人生を豊かにするヒントなのかもしれません。
ストレスとの付き合い方を考える
大学生活も、思ったよりストレスが多いものです。試験やレポート、そして将来への不安。そんな中で、守田さんの「ストレス発散丼」の話に心が軽くなりました。仕事帰りに美味しい肉を買って、好きな味でご飯と一緒にかき込むという、それだけのことが、明日も頑張ろうと思える力になる。
私も、自分だけのストレス解消法を見つけたいなと思いました。誰のためでもない、自分のためだけの贅沢な時間。それがあるだけで、どんなに救われることか。
働き方、生き方に対する新しい視点
この本を読んで、改めて「今のままでいいのか?」と自分に問いかけてしまいました。守田さんの「隠居マニュアル」はユーモアに溢れていながらも、非常にリアルで、心に響きます。家賃3万円で東京に住んで、週2日働くだけで好きなことをして生きる、そんな生活ができたらどんなに素敵か。
もちろん、現実では難しいかもしれませんが、こうしたオルタナティブな生き方を考えることができるだけでも、心が自由になる気がします。私たちはもっと自由に、自分の生き方をデザインしていいのだと感じました。
弱さや失敗も愛すべき自分の一部
最後に心に残ったのは、著者が自分の失敗や弱さをも隠さずに書いている点です。夜遅くに財布を忘れたことに気づいて「モンスターを倒して稼げばいい」とゲームと現実を混同してしまう話や、父親とのぎくしゃくした関係を振り返るエピソード。どれも、どこかで自分にも心当たりがあるような気がして、胸が締め付けられました。
私たちは完璧ではないし、失敗もたくさんするけれど、それもまた自分の一部として受け入れていくことが大切なのだと思います。守田さんの誠実な文章を通して、そんな風に自分を見つめ直すことができました。
『愛すべき凡庸な日常』は、特別な成功を描いた本ではありません。でも、だからこそ、私たちの「凡庸」な日々を少しだけ愛おしく、輝かせてくれる力があります。もし、日常に疲れているなら、ぜひこの本を手に取ってみてください。あなたの心に寄り添い、少しだけ楽にしてくれる、そんな一冊です。