ノンフィクション
2025年07月18日 16時02分

「奪われた集中力」が問いかけるもの:注意が散漫な時代の私たちへ

この本を手に取った時、私は正直言って、少し懐疑的でした。「集中力を奪われている」というテーマに、どれだけの新しさがあるのかと。でも、ページをめくるごとに、まるで自分の心が見透かされているような感覚に陥りました。ヨハン・ハリの『奪われた集中力』は、単なる現代社会の問題を指摘するだけでなく、私たち一人一人に深く問いかけてくる作品です。

集中力を奪われた日常

私たちの生活は常に情報に溢れています。スマホの通知、メール、SNSのフィード。これらは一見便利に思えますが、実際には私たちの注意を切り刻む刃でもあるのです。読書の途中で、ついスマホを手に取ってしまう。誰もが経験したことがあるこの状況に、私も例外ではありません。

ハリは、私たちの集中力がどのようにして奪われているのかを、とても具体的に説明してくれます。彼が示すデータによれば、私たちの注意は平均して65秒ごとに切り替わっているそうです。これを知った時、私は自分の生活を振り返らざるを得ませんでした。まるで自分の時間がどこかに吸い取られているような感覚。そんな実感を、私はこの本を通じて再確認しました。

思考することの大切さ

「思考する力が落ちれば、腐りかけの野菜を売りつけられてしまうかも」という一文が、特に心に残りました。私たちは日々の選択が多すぎて、つい表面的なものに流されがちです。私が初めて東北を訪れた時、地元の人々の丁寧な生活に触れて、物事をゆっくり考えることの大切さを学びました。その時の感覚が、この本を読んで再び蘇ったんです。

ハリは、私たちが再びじっくりと考えるためには、どうすればよいのかを考察しています。彼の提案はどれも実行可能で、私もいくつか試してみようと思いました。例えば、スマホを使わない時間を意識的に作ること。週末にデジタルデトックスを試みたり、小さな図書館で一日過ごしてみたり。そういった些細なことが、実は大きな違いを生むのではないかと感じています。

心の余裕を取り戻すために

「本を読んで理解するには、気持ちがさまようことを許容するだけの心の余裕が必要なのだ」。この言葉を読んで、私はほっとしました。普段、効率を追い求めるあまり、自分を追い詰めてしまっていることに気づかされたからです。もっと自分の心に余裕を持たせて、さまようことを許してもいいのだと。

私が図書館で働く理由の一つは、そこに流れる時間のゆったりとした感覚が好きだからです。人々が本を選び、ページをめくりながら、時には立ち止まる。その姿を見ていると、私自身も心が落ち着きます。この本を読み終えた後、私はもっと自分のペースで、心の余裕を持って生活しようと決めました。

『奪われた集中力』は、単なる自己啓発本ではなく、私たちの生き方そのものを見直すきっかけを与えてくれる一冊です。情報に溢れた現代社会で、私たちはどう生きるべきなのか。その答えを探し続けることこそが、大切なのだと教えてくれます。

高橋 湊

高橋 湊

静かに本と向き合うのが好きな会社員。ノンフィクションや地方の物語を読みながら、自分の暮らしを少しずつ耕しています。派手さはないけれど、じわじわ染みる本が好きです。

タグ
#デジタルデトックス
#ヨハン・ハリ
#注意力
#自己啓発
#集中力