古典文学
2025年07月06日 09時00分

夜のパリを歩く旅:『パリの最後の夜』が私に教えてくれたこと

ある夜、私はふと「パリの最後の夜」という本を手に取りました。フィリップ・スーポーが描いたこの作品は、私にとってとても不思議な体験をもたらしました。シュルレアリストたちが活躍した20世紀初頭のパリを舞台にして、何か特別なことが起こるわけではないのに、ページをめくるたびに心が引き込まれました。

夜のパリという舞台

パリと聞くと、皆さんはどんなイメージを持ちますか?私は、エッフェル塔やセーヌ川沿いのカフェ、そしてどこかロマンティックな街並みを思い浮かべます。でも、この本に描かれるパリは、夜の静けさと謎めいた雰囲気が支配する別の顔を見せてくれました。

物語は、主人公「おれ」がジョルジェットという娼婦を追いかける夜のパリの散策から始まります。彼女の後をつけて歩く「おれ」の視点を通して、私はまるで自分がその場にいるかのようにパリの街を歩いている気持ちになりました。夜のパリの風景は、昼間とは違って影だけが強調され、現実と非現実の境界が曖昧になるような不思議な感覚を味わうことができました。

実際に何か具体的な出来事が起こるわけではありません。ただ、ジョルジェットの後を追うことで見えてくるパリの街並みと、そこに潜む謎たち。シュルレアリスト的な描写が、私を夢の中にいるような気分にさせてくれました。

心に残る「おれ」とジョルジェットの物語

この本の魅力は、何と言っても「おれ」とジョルジェットの関係性です。ジョルジェットが普通の娼婦として描かれつつも、彼女にはどこか神秘的な力があるように感じられます。彼女の存在が、「おれ」を夜のパリへと誘い、読者である私もまたその旅に連れて行ってくれるのです。

「おれ」は特に何かを成し遂げるわけでもなく、ただジョルジェットの後を追い続けます。でもその追跡の中で、私は彼が本当に求めているものは何なのか、考えさせられました。目的のない旅、それはもしかしたら、私たちが日常で抱える漠然とした不安や、何かを探し求める気持ちそのものかもしれません。

ジョルジェットが持つ「夜を変貌させる力」という表現がとても印象的でした。普段見慣れた風景を、彼女というフィルターを通して見ることで、全く違うものに感じられる。それは本当に素晴らしい体験でした。

読後の余韻と心の旅

本を読み終えた後も、心の中には夜のパリが広がったままでした。謎が解明されるわけではないのに、その謎めいた余韻が心地よく残り、まるで夢から覚めた後のような気分でした。シュルレアリスムというと難解なイメージがあるかもしれませんが、この本はただ「感じる」ためのものだと思います。

時には、こうした目的のない読書もいいものですね。答えを求めるのではなく、ただその場の空気を感じ、心の中に何かが残る。それこそが、フィリップ・スーポーのこの作品が持つ力なのかもしれません。

私はこの本を、そっと本棚に戻しながら、また夜のパリを訪れる日を楽しみにしています。なんだか、心にやさしい読書でした。皆さんも、ぜひこの不思議な旅を体験してみてください。

rio_reads

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北海道の小さな町で、静かに本を手渡す日々を送っています。子どもの頃、祖父にたくさんの昔話を読んでもらったことが、今でも心の芯に残っています。流行の本よりも、少し古びた本や、静かに棚の奥に佇む本に惹かれます。

物語の余韻や、そっと心に残る言葉を大切にしたい。そんな気持ちで、読んだ本をゆっくり、ていねいに紹介しています。派手ではないけれど、誰かの暮らしをちょっとだけあたためる、そんな本と出会えたら嬉しいです。

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