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2025年12月06日 03時18分

心の奥に残る「バイアスの罠」:藤田政博『心理学で読み解く組織の問題』

こんにちは、高橋湊です。今日は、藤田政博さんの『心理学で読み解く組織の問題』を読み終えて、私自身が感じたこと、思い出したことをお話ししたいと思います。この本を手に取ったのは、普段から「人がどう生きてきたのか」に興味を持っている私にとって、組織の中でどのように人が影響を受けているのか、というテーマがとても気になったからです。

心に引っかかる「ナンセンスな数式効果」

この本を読んでいると、いくつもの事件や事象が、心理学の視点から解説されていきます。例えば、「ナンセンスな数式効果」という言葉が出てきたとき、私の脳裏にふと学生時代のことがよぎりました。あの頃、数学の授業でちっとも理解できなかった数式が、なぜか先生が「これは試験に出る」と言った瞬間、急に重要に思えてきたことを思い出したんです。実際には理解していないのに、数式が持つ重みだけで説得されてしまう感覚、これが「ナンセンスな数式効果」なのでしょう。

ビッグモーターや東芝の事件は、まさにこの効果を悪用した例として挙げられています。どこかで「数字が入ると説得力が増す」という心理に組織全体が染まってしまった結果、無理な業務命令がまかり通ってしまったのかもしれません。こうした事例を読んでいると、組織の中で個々の人間がどのように考え、何を信じて行動しているのかが透けて見えるような気がしました。

「短期的利益」と「時間割引」の罠

次に印象に残ったのが、「短期的利益を得に感じる『時間割引』」という概念です。私も過去に、短期的な利益を追求するあまり、長期的に見て損をしてしまった経験があります。あれは確か、出版社に勤めていた30代の頃、締切に追われる日々の中で、安直に済ませた仕事が後々大問題に発展してしまったことがあったんです。あの時も、目の前の締切を守ることだけを考えて、もっと長期的な視点を持てなかった自分を悔やみました。

損保ジャパンの例も、短期的な利益を優先した結果、組織全体が問題のある取引を再開してしまったケースです。この本を読むと、「時間割引」がどれほど組織に悪影響を与えるかがよくわかります。そして、私たちが日常生活の中でどれだけこの罠に陥っているか、考えさせられました。

都合のいい方を選ぶ「確証バイアス」

「確証バイアス」という言葉もまた、私の心に深く刻まれました。ジャニーズ事務所問題におけるメディアの対応は、まさにこのバイアスが働いた例です。自分の頭の中にある仮説に都合のいい情報ばかりを集めてしまうというこの現象、実は私たちの日常にもたくさん潜んでいるのではないでしょうか。

このバイアスを読んでいると、ふと、大学時代に友人と議論したある夜のことを思い出しました。私たちは、ある授業でのテーマについて熱心に議論を交わしていましたが、後になって考えてみると、それぞれが自分の意見を正当化するために都合のいい情報ばかりを集めていたのです。友人との議論は、意見を新たにする機会でもありましたが、同時に自分のバイアスに気づく機会でもあったのです。

「真実性の錯覚」とメディアの影響力

最後に触れたいのは、「真実性の錯覚」という概念です。メディアが繰り返し報道することで、嘘でも真実のように感じてしまうというこの現象は、私たちがいかに情報に対して無防備であるかを示しています。ウクライナ戦争の報道や少年犯罪の報道におけるメディアの影響力を考えると、情報を受け取る側としての私たちの責任が重いことを痛感しました。

この本を読み終えて、私は改めて、自分自身の感情や思考の動きに正直であることの重要性を感じました。そして、組織における集団の力やメディアの影響力とどう向き合っていくべきか、自分なりに考えてみようと思います。藤田さんの本は、単なる心理学の解説書ではなく、私たちの生活や仕事に深く関わってくるテーマを扱っていると感じました。この一冊は、長く私の心に残り続けることでしょう。

高橋 湊

高橋 湊

静かに本と向き合うのが好きな会社員。ノンフィクションや地方の物語を読みながら、自分の暮らしを少しずつ耕しています。派手さはないけれど、じわじわ染みる本が好きです。