ノンフィクション
2025年08月10日 03時19分

日本建築の「ファスト化」現象が問いかけるもの:時代の流れに浮かぶ伝統の影

建築に映る時代の鏡

最近、『ファスト化する日本建築』という本を読みました。この本は、私にとって少し驚きであり、同時に何か心に引っかかるものがありました。著者の森山高至さんは、現代の日本建築が抱える問題を、まるで私たちの生活そのものを映し出す鏡のように描いています。

本を読みながら、ふと子どもの頃に祖母の家に遊びに行ったときのことを思い出しました。古い木造の家で、毎年手入れをしていた屋根の茅葺きの匂いが懐かしく感じられました。あの頃は、自然と共に生きるという感覚が当たり前のようにそこにあったのです。でも、今の時代はどうでしょう。新しい建物が次々と建ち、その多くが短期間で見栄えを追求するだけの「ファスト建築」と化している現状を見て、少し悲しくなってしまいました。

伝統と現代の狭間で

本書では、特に「腐る建築」というキーワードが印象に残りました。これは、見た目の美しさを求めるあまりに、長期的な持続可能性を犠牲にしてしまった建築物のことを指しています。著者は、これを日本建築の伝統と現代の設計思想の断絶として捉えています。かつての建築は、地元の材料を使い、気候や風土に合った形で作られていました。それが今では、どこか形だけが残され、本質が失われているように感じます。

私自身、大学で哲学を学んでいるせいか、こうした「本質」と「形」の違いに敏感になってしまうのかもしれません。形を追求するあまり、本来の目的を見失ってしまうというのは、建築だけでなく私たちの生活や社会全体にも言えることではないでしょうか。

再開発と記憶の喪失

また、再開発の話題もこの本の重要なテーマの一つです。都市の再開発で失われていく風景や記憶について、著者は警鐘を鳴らしています。特に、子供の頃に遊んだ公園が再開発で姿を消してしまったのを思い出すと、心が痛みます。あの場所は、ただの土地ではなく、私の成長の一部でした。

森山さんの指摘する「記憶の手がかりを捨て去る社会」という言葉が、胸に刺さります。私たちが何気なく過ごしている日々が、実は未来の誰かにとっての大切な記憶になるということを、忘れないでいたいと思います。

未来に向けて

では、これからの建築はどうあるべきなのでしょうか。本書では、近代建築の利点を活かしつつ、伝統の美点を継承することの重要性が説かれています。堀部安嗣さんの取り組みのように、すでにあるものを活かし、環境や土地の歴史を大切にする建築手法が紹介されています。これは、単なる建築の話にとどまらず、私たちの生き方そのものに通じるメッセージだと感じました。

この本を読み終えて、「何を守り、何を変えていくべきか」という問いが自分の中に残りました。結論を出すことはできませんが、少しでもこの問いを深めていきたいと思います。たぶん、そういうことなんだと思います。

一ノ瀬悠

一ノ瀬悠

京都で哲学と文学を学ぶ大学生です。読書は、まだ言葉にできない気持ちと静かに向き合う時間。小さな喫茶店で本を読みながら、たまに日記のような読書ノートを書いています。

物語のなかに静かな絶望や、小さな希望を見つける瞬間が好きです。

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