心に響く静かな対話の力:『ほんとうの会議 ネガティブ・ケイパビリティ実践法』を読んで
こんにちは。今日は、私の心にじんわりと響いた一冊、『ほんとうの会議 ネガティブ・ケイパビリティ実践法』についてお話ししたいと思います。北海道の小さな町で、書店員として本に囲まれる日々を送っている私ですが、この本は、まるで静かな湖面にぽつんと投げられた石のように、私の心に小さな波紋を広げました。タイトルからして、少し難しそうに見えるかもしれません。でも、読んでみると、その奥にはとても人間らしい、温かいメッセージが込められていました。
日常の中の「ほんとうの会議」
この本を手に取ったとき、まず浮かんだのは、私が経験してきたさまざまな「会議」についてです。お店のスタッフミーティングや、地域のイベントの打ち合わせ。どれも、何かを決めるために集まる場でしたが、いつも何かしらの違和感が残るものでした。著者の帚木蓬生さんは、そんな会議の在り方に疑問を投げかけ、ネガティブ・ケイパビリティという独自の視点で、新しい会議の形を提案しています。
「ネガティブ・ケイパビリティ」とは、答えの出ない状況に耐えられる力のこと。すぐに結論を出さず、意見をただ共有し合うことで、思いもよらない発見がある。私はこの考え方に触れたとき、自分が幼い頃に祖父と話したことを思い出しました。祖父はよく、私が何かを質問すると、すぐには答えを教えてくれませんでした。「自分で考えてごらん」とだけ言って、私の考えをじっと待ってくれたのです。結局、どんな答えが正しかったのかを話し合うことが、私にとって大事な時間だったと気づきました。
思いやりが生む対話の力
この本の中で、特に印象に残ったのは、アメリカのギャンブル症者が偶然始めた自助グループの話です。言いっ放し、聞きっ放しのスタイルで、批判や結論を求めない。その結果、参加者たちは「今だけ」「自分だけ」「金だけ」という狭い視野から解放され、思いやりや寛容さを育むことができたと言います。この考え方は、フィンランドで始まったオープン・ダイアローグにも通じるものでした。
私がこの本を読み進めるうちに、過去の自分の姿が浮かびました。親友と夜通し語り合ったあの日々。結論なんて出なくていいから、ただ思いを話し、相手の言葉を聞く。そんな時間が、私たちの絆を深めてくれたのだと思います。著者が言うとおり、評価抜きで多様な意見を述べ合うことで、思いがけない世界が見えてくる。この本を読みながら、胸の奥でずっと忘れかけていた大切なことを思い出しました。
心の中の静かな革命
本の終盤で、著者がフランスでの留学体験を語る場面があります。パリのアパルトマンで繰り広げられた「終わりなき対話」。ラカンやカミュといった知識人たちとの交流を通じて、著者が得たものは、やはり「答えのない会話」の力でした。「答えは質問の不幸である」という言葉が、私の中で何度も響きました。私たちはつい、すぐに答えを求めてしまいがちです。でも、この本を読み終えた今、私は少し違った見方を持てるようになりました。答えを急ぐより、その過程を大切にすることの方が、ずっと豊かで深いものをもたらしてくれるのです。
この本を読み終えて、心の中で小さな革命が起きました。何かを決めるために集まることよりも、ただそこにいて、一緒に考えることの大切さ。それが「ほんとうの会議」なのだと感じました。私の町の書店にも、こんな対話を大切にする場がもっと増えたらいいなと、静かに思います。
『ほんとうの会議 ネガティブ・ケイパビリティ実践法』は、そっと本棚に置いておきたい一冊です。時折、手に取って、心の中の静かな対話を楽しむ。そんな時間を、これからも大切にしていきたいと思います。