エッセイ
2025年12月01日 15時05分

『理系の読み方: ガチガチの理系出身作家が小説のことを本気で考えてみた』 – 理系と文系の橋渡しを試みる一冊

理系出身の作家が小説に挑む理由

こんにちは、福岡出身で20代後半の者です。もともと理系出身で、エンジニアとして働いていた私が、ある日ふと手に取ったのが『理系の読み方』でした。著者の大滝瓶太さんも理系出身ということで、どんな視点から小説を読み解くのか興味津々でした。

本書のテーマは、いわば「理系から見た小説の世界」です。理系の人間って、どうしても論理的思考に偏りがちで、感情や情緒を扱う小説に苦手意識を持つ人も多いんです。私もそうでした。でも、大滝さんはその理系的思考を武器にして、小説の新しい読み方を提案しているんです。

カフカの『変身』を分子シミュレーションで解く

特に印象に残ったのは、カフカの『変身』を「分子シミュレーションみたいな小説」と表現していたところです。これには、思わず「なるほど!」と膝を打ちました。分子シミュレーションなんて、普通は小説と結びつかないものですが、大滝さんはそれを見事に結びつけて、読者に新しい視点を提供してくれます。

『変身』が「閉じた系」で、主人公のグレゴール・ザムザが変わり果てていく様子を、まるで化学反応の過程のように捉える。これって、理系の発想ですよね。しかも、その見解がただの奇をてらったものじゃなくて、ちゃんと論理に裏付けられているんです。それを知ったとき、私の中で何かがカチッとはまったような感覚になりました。

小説を通して広がる世界

「純文学―エンタメ統一理論」を夢想しているという著者の姿勢にも共感を覚えました。私が読書を始めたきっかけも、ノンフィクションという現実を扱うジャンルからでしたが、そこからフィクションへと興味が広がっていったんです。本って、人の世界を広げる道具なんだな、と改めて感じさせられました。

大滝さんの本を読み進めながら、私自身の読書体験も振り返りました。静かな対話を楽しむように、本と向き合う時間がどれほど大切だったか、再認識させられたんです。派手さはないけれど、心にじんわりと染みる作品って、記憶に残りますよね。『理系の読み方』もそんな一冊でした。

理系と小説の新たな出会い

この本を通じて、理系出身者にとって小説がどれほど魅力的なものになり得るか、実感しました。理系だからこそ見えるもの、理系だからこそ感じることが、小説の中にある。この発見は、私にとって新しい読書の楽しみ方を提供してくれました。

理系と文系の分断が叫ばれる中で、大滝さんのような存在は貴重です。彼のような視点がもっと広がれば、きっと多くの人が新しい世界と出会えるはず。私も今後は、理系的視点から小説をもっと深く味わってみたいと思います。じわじわと心に響く、そんな本との出会いをこれからも大切にしていきたいです。

晴斗

晴斗

福岡在住、静かな読書が好きな会社員です。ノンフィクションや地方の物語を読みながら、自分の暮らしをゆっくり整えています。派手な本よりも、じんわり心に残る本が好きです。読書は、静かだけれど豊かな旅だと思っています。

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