「続 街並みの美学」芦原義信が紡ぐ都市と文化の物語
はじめての「街並み」との出会い
芦原義信の『続 街並みの美学』を手にしたのは、福岡の書店でふと目に留まったときでした。大学時代、理系の勉強に没頭していた僕が、たまたま手に取ったノンフィクションに心を揺さぶられてから、本という存在がぐっと身近になりました。それ以来、様々な本に触れてきましたが、この本はまた新しい視点をくれました。
この本を読み進めるうちに、街並みというものが、ただの建物の集まりではなく、歴史や文化、人々の生活が織りなす一つの物語であることに気付かされました。芦原さんが述べる「壁の建築」と「床の建築」という概念は、まさに目から鱗が落ちる思いでしたね。西欧の建築を壁として捉え、日本の建築を床として捉える視点は、その違いを理解する上でとても新鮮でした。
日本と西欧、異なる「視点」からの美学
芦原さんは、西欧の街並みが線的であり、日本は領域的であると説明しています。これに触れたとき、僕は子どものころ父と一緒に散歩した博多の街を思い出しました。博多はどこか雑然としていて、でもその雑然さが何とも言えない心地よさを醸し出していました。この本を読んで、その理由が少しわかった気がします。
西欧の都市が一つの中心を持ち、それを起点に整然と街並みが広がるのに対し、日本の都市は、中心の概念が薄く、アメーバのように柔軟に広がりを見せる。これを読んで、ふと福岡の街を俯瞰したときのイメージが浮かびました。確かに、福岡もどこかに中心があるようでないような、そんな曖昧な感覚があるのです。
都市の美しさと個人の視点
また、芦原さんの考察の中で特に心に残ったのは、日本の都市が内側からの視点を重視し、西欧が外側からの視点を大切にしているという点です。日本の家屋は、外から見ると地味だけれど、中に入ってその細部の美しさに感動することが多いですよね。これって、なんだか日本人の心の在り方そのものを表しているように感じました。
この本を読みながら、僕は自分の部屋の窓から見える景色を眺めていました。おそらく、外から見たら何の変哲もないマンションの一室でも、中から見るとそこには日々の生活があり、心地よい空間が広がっている。そんなことに思いを馳せていると、芦原さんの言う「内から眺める景観」が、ただの建築論を超えて人生そのものの捉え方に通じている気がしてきます。
これからの都市づくりに向けて
芦原さんの提言の中には、具体的な改善策も多く含まれています。例えば、都市の色を考えるという提案。日本の街並みは色とりどりで賑やかですが、芦原さんはパリのように無彩色を基調とすることで、人々の装いが一層引き立つのではと述べています。この提案を聞いたとき、確かに日本の街で美しい色の服を着ていても、背景に埋もれてしまうことが多いと感じました。
また、電柱の撤去や都市の緑化といった提案も、本を読みながら「なるほど」と頷いてしまいます。福岡の街もそうですが、電柱が林立し、緑が少ないところが多い。それが改善されれば、もっと心地よく歩ける街になるのではないでしょうか。
芦原さんの本から得た気づきは、単に都市の美しさについて考えるだけではなく、僕自身の生活や社会のあり方を考え直すきっかけにもなりました。日本の雑然とした都市も、見方を変えれば民主的で自由な空間であり、そこにはバイタリティが溢れている。そんな都市に住む僕たちが、どうやってその中で美しさを見つけ、育んでいくか。芦原さんの言葉は、そんな問いを投げかけてくるのです。
この本を読んだ後、僕の中には静かな感動が残りました。芦原さんの視点を通じて、街を見る目が少し変わったように思います。普段何気なく歩いている道、見慣れた建物が、実は多くの歴史と文化を背負っている。それに気づいたとき、なんだか胸にじんわりとした温かさが広がりました。
『続 街並みの美学』は、派手さはないけれど、じわじわと心に沁みてくる良書です。都市の美しさに興味がある方はもちろん、普段読む本とは違う視点を求めている方にも、ぜひ手に取ってほしい一冊です。