ノンフィクション
2025年08月13日 09時03分

心に響く、義太夫娘たちの物語:文化の中で息づく強さと美しさ

娘義太夫に出会った日のこと

この本を手に取ったのは、正直に言うと「偶然」でした。中央公論新社の『知られざる芸能史娘義太夫: スキャンダルと文化のあいだ』を見かけたとき、なんだか不思議な引力を感じたんです。普段はノンフィクションや地方に根ざした物語を好む私ですが、このタイトルにはどうしても抗えない魅力がありました。娘義太夫という言葉を目にしたとき、何か心の奥に引っかかるものがあったんです。

この本を読み進めるうちに、娘義太夫と呼ばれる女性たちが、明治時代の芸能界でどのように活躍していたのかが鮮やかに描かれていました。そして、彼女たちがただの芸能者ではなく、一つの文化を形成した存在であったことに気づかされました。著者の水野悠子さんが、義太夫協会での経験を活かしながら、丁寧に紡ぎ出したその物語は、まるで過去の日本にタイムスリップしたかのような感覚を与えてくれました。

文化とスキャンダルの狭間で

娘義太夫の物語は、単なる歴史の一部ではなく、当時の社会との対話でもあります。明治時代、彼女たちは「明治の徒花(あだばな)」と揶揄されることもありましたが、その背景には女性が公の場で活躍することへの偏見や、社会全体の変革期における葛藤が見え隠れします。文化とスキャンダルが交錯する中で、娘義太夫たちはどのように自身の価値を見出し、社会に認められていったのでしょうか。

この本を読みながら、ふと自分の大学時代を思い出しました。理系の大学でエンジニアリングを学んでいた私にとって、文化や芸術は遠い世界のものに感じていました。しかし、ある日出会った一冊のノンフィクションが、私の中に眠っていた何かを呼び覚ましたのです。そのときの衝撃と、娘義太夫たちが紡いだ文化の重なりに、私は静かな感動を覚えました。

芸の美しさとその革新性

娘義太夫たちは、芸の中に新しい視点を持ち込みました。彼女たちのパフォーマンスは、単なる見世物ではなく、観る者の心に深く訴えかけるものがありました。特に「歌い型・簪落とし型」というスタイルは、女性が義太夫に新たな命を吹き込んだ瞬間を象徴するものでした。このスタイルが批判される一方で、革新性を持って受け入れられたことに、芸能の持つ力を感じざるを得ません。

この部分を読んでいると、静かに胸が熱くなりました。美空ひばりや山口百恵といった、時代を超えて愛され続ける女性たちの姿と重なり、彼女たちの芸の美しさと勇気に心打たれました。彼女たちが社会の中でどのように自分の場所を見つけ、表現していったのか、その物語は今もなお私たちに大切な何かを教えてくれるように思います。

静かに染み入る文化の価値

この本を読み終えたとき、心にじわじわと染み入るものがありました。歴史の中で埋もれがちな存在を掘り起こし、丁寧にその価値を伝えてくれた著者に、静かな感謝の気持ちが湧いてきました。私は普段、派手なものではなく、静かに心に響くものを好みます。この本はまさにそんな一冊で、派手ではないけれど確かな価値を持つ良書です。

娘義太夫の物語を通して、私たちは文化の中に潜む多様性や、見過ごされがちな価値に気づかされます。そして、それは私たちの生きる現代にも多くの示唆を与えてくれます。こうした静かな感動を求めるすべての人に、この本を手に取ってほしいと心から思います。

読後、なんとも言えない余韻に浸りつつ、私はこの本と出会えたことに感謝し、また一歩、自分の世界が広がったことを感じています。静かに、でも確実に私の心を揺さぶったこの本、あなたにもぜひ体験してほしいです。

晴斗

晴斗

福岡在住、静かな読書が好きな会社員です。ノンフィクションや地方の物語を読みながら、自分の暮らしをゆっくり整えています。派手な本よりも、じんわり心に残る本が好きです。読書は、静かだけれど豊かな旅だと思っています。

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