「データと対話」の狭間で:心の距離を埋めるために必要なこと
こんにちは、京都の片隅で哲学を学ぶ大学生です。今日は、立教大学の中原淳教授の『「データと対話」で職場を変える技術 サーベイ・フィードバック入門』について語りたいと思います。この本を読んだとき、私の頭の中には、かつて参加した読書会での対話がよみがえりました。
データだけでは何も変わらない
本書を手に取ったきっかけは、実はあまり特別なものではなくて、ただ「データ」と「対話」という言葉が並んでいるのが面白そうだな、という好奇心からでした。大学でもデータ分析の授業を受けているのですが、そこで感じることは、データは万能ではない、ということです。この本を読んで、その思いにさらに確信を持ちました。データは、私たちの現実を映し出す鏡に過ぎず、その鏡の中に映るものをどう解釈し、どう行動に移していくかは、結局人間次第なのです。
本書が繰り返し訴えるのは、データそのものではなく、それを基にした「対話」が組織を変える力を持つということ。ここで言う「対話」とは、単に言葉を交わすことではなく、深くて本質的なコミュニケーションを指しているのだと感じました。私自身、読書会で感じた「対話」の力。それは、自分が何を考えているのか、何を感じているのかを相手に伝え、また相手の考えを受け取り、そこから新しい発見をするプロセスでした。
「見える化」と「ガチ対話」
本書で紹介されている「サーベイ・フィードバック」の3ステップ、その第一歩は「見える化」です。サーベイを通じて、普段は見過ごされがちな組織の問題を浮かび上がらせる。このプロセスは、私にとっては読書会での「気づき」の瞬間に似ています。ある本についてみんなで話していると、自分では意識していなかったテーマや感情が、ふとした瞬間に見えてくることがあります。
そして、次に来る「ガチ対話」。この言葉に、少しくすっと笑ってしまいました。なぜなら、何度も読書会で「ガチ対話」を経験してきたからです。意見がぶつかり合うときもあるし、時には沈黙が続くことも。でも、その静寂の中に、何か大切なものが浮かび上がってくるのを感じたことが何度もあります。データを素材にした対話も、きっと同じではないでしょうか。数字やグラフの奥にある「人間らしさ」を見つけ出すための対話。それが組織を変える原動力になるのだと思います。
未来をつくるための小さな一歩
本書の最終ステップ「未来づくり」は、未来に向けた希望を感じさせてくれるものです。対話を通じて見えてきた課題に対し、具体的なアクションプランを自分たちで作り上げる。これは、まさに「自分たちの未来を自分たちで決める」という行為です。私が読書を通して学んだことの一つに、「行動することの大切さ」があります。どんなに小さな一歩でも、それを踏み出すことでしか見えてこない景色がある。
読書会での対話もそうです。ある本について語り合う中で、今まで考えもしなかった視点を得たり、自分の中の考えが整理されたりする。そして、それが日常の中での小さな行動の変化につながることもあります。本書が教えてくれたのは、職場という組織の中でも、そのような小さな変化を積み重ねていくことで、やがて大きな変革につながるかもしれない、ということです。
心の距離を埋めるために
最後に、この本を読んで一番強く感じたこと。それは「心の距離を埋める」ということの重要性です。データや技術がどんなに進化しても、結局、人と人との関係性がすべての基盤にある。だからこそ、「対話」がこれほどまでに大切にされるのだと思います。
私自身、読書会での対話を通して、参加者それぞれの背景や価値観に触れ、自分の視野が広がるのを感じています。そのプロセスは、時に心を開くのが難しいと感じることもありますが、それでも対話を諦めないことで築かれるものがある。
この本を閉じた後、私はふと思いました。職場でも、学校でも、どんなコミュニティでも、この「データと対話」というアプローチは応用できるのではないか。私たちが互いに心を開き、データをきっかけに本音を語り合うことで、もっと豊かな人間関係を築いていけるのではないか、と。そんな希望を胸に、また一歩、歩みを進めようと思います。