エッセイ
2025年07月13日 15時02分

藤村のパリ:過去と現代を繋ぐセンチメンタル・ジャーニー

皆さん、こんにちは。今日は河盛好蔵さんの『藤村のパリ』についてお話ししたいと思います。実を言うと、この本を手に取ったのはまさに偶然で、書店でふと目に留まった表紙のデザインに惹かれたんです。でも読み進めるにつれて、これはただの偶然ではなく、何か運命的な出会いだったのかもしれないと感じ始めました。

藤村の旅路に共鳴するもの

『藤村のパリ』は、島崎藤村が1913年にパリに渡った際のエピソードを追いかけた本です。藤村がパリを訪れた理由について、彼自身の心の葛藤や、当時の日本の文壇の期待などが描かれています。私はこの本を読みながら、藤村がどんな思いで「深い溜息の一つも吐くつもりで」パリに向かったのか、その心の内を感じずにはいられませんでした。実際、私自身も何かに背中を押されるようにして旅に出た経験があります。学生時代の終わり頃、何かに疲れてしまって、ふらりと一人旅に出たことがありました。その時の心の動きと、藤村の心情がどこか重なって感じられたんです。

そういった個人的な記憶がよみがえった時、藤村のパリ滞在がただの「旅行」ではなく、心の旅路でもあったことがよくわかります。藤村は姪との不倫の悩みを抱えたまま、異国の地で一人静かに自分の内面と向き合ったのでしょう。私もまた、あの一人旅で自分自身と向き合ったように思います。

過去と現在の交差点

著者の河盛さんもまた、藤村に遅れて同じ道をたどるようにパリに渡っています。この部分がとても興味深く、二つの時代が交差する瞬間に立ち会ったような気持ちになりました。たとえば、藤村が訪れたパリの街並みや、そこに生きた人々の姿、それに対する河盛さんの視点は、時を超えて私たちに多くのことを教えてくれます。

河盛さんが藤村の足跡を辿る中で、藤村が下宿していた場所や、彼が接したパリの文化、歴史が細やかに描かれています。その描写を読みながら、私もまるでその場所を訪れたかのような感覚を覚えました。大学で哲学と文学を学んでいる私にとって、こうした歴史と文化の交差点に身を置くことは、知識の拡大だけでなく、心の奥底に何かを響かせる体験でもあります。

心に残る一冊

最後に、この本を読み終えた後に残った余韻について少し。『藤村のパリ』は、単なる文学史の一コマとしてだけでなく、私たちが自分自身を見つめ直すきっかけを与えてくれる一冊です。旅というものが、物理的な移動だけでなく、心の旅でもあることを改めて実感しました。

そう言えば、藤村がパリで過ごした時間の中で、彼がどんな風に心を癒し、また何を得たのか。直接的な答えは本の中にありませんが、彼がその後の人生で書いた作品たちが、その答えを少しずつ教えてくれるように思います。それは、私たちが日々の生活の中で、小さな気づきを得ていく過程に似ているのかもしれません。

この本を読み終えて、いつか私もパリを訪れ、藤村や河盛さんが見たものを自分の目で見てみたいと強く思いました。皆さんもぜひ、この作品を手に取ってみてください。きっと、あなた自身の心の旅にも何かしらの影響を与えてくれることでしょう。

一ノ瀬悠

一ノ瀬悠

京都で哲学と文学を学ぶ大学生です。読書は、まだ言葉にできない気持ちと静かに向き合う時間。小さな喫茶店で本を読みながら、たまに日記のような読書ノートを書いています。

物語のなかに静かな絶望や、小さな希望を見つける瞬間が好きです。

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